「また何もしない1日が終わってしまった…」休日の夜、こんな罪悪感にさいなまれることはありませんか?平日は仕事や家事をこなせるのに、休日になるとやる気が起きず無為な時間を過ごしてしまう。これは、自律神経からのSOSサインかもしれません。今回は公認心理師の浅井咲子さんに、こうした状態のメカニズムと、心身を楽にする神経との付き合い方についてうかがいました。

- Profile
- 浅井咲子さん
- > ART of therapy
公認心理師、神経セラピスト。外務省在外公館派遣員として在英国日本国大使館勤務を経て、米国ジョン・F・ケネディ大学院にてカウンセリング心理学の修士課程を修了。2008年にセラピールーム「アート・オブ・セラピー」を設立、自己調整とレジリエンスのある生活を提案。全国で講演や講座も実施。著書に『不安・イライラがスッと消え去る「安心のタネ」の育て方』(大和出版)ほか多数。
「休日無気力症候群」
とは?
休日になると何に対してもやる気が起こらない状態を「休日無気力症候群」といいます。なぜそうなってしまうのか、体はどういった状態になっているのか、自律神経の観点から解説します。
※「休日無気力症候群」は医学的な病名ではありません

3つの自律神経の働き
上の図は自律神経の働きを示しています。交感神経は元々、動物が敵と出会ったときの「戦う・逃げる」を実践するための神経で、興奮や緊張をつかさどります。副交感神経は、主に一人でリラックスするときに働く背側迷走神経(休息・消化モード)と、他者と心地よくつながるときに働く腹側迷走神経(つながりモード)の2つで構成されています。
例えば、緊張する仕事の合間に甘いものを食べてひと息つく、というように、1日の中でも交感神経と2つの副交感神経は、絶えず行き来しながら働いています。
神経の使い方には「クセ」がある
副交感神経の休息・消化モード(背側迷走神経)は、生まれながらに誰もが持っていますが、つながりモード(腹側迷走神経)は生育歴の影響を受けます。「子どもの頃、周囲に安心できるかかわりをしてくれる大人がいたかどうか」といったことによって発達の度合いが変わり、神経の使い方に偏りが生じるようになります。「交感神経が過剰に働きやすい」のも、そうした使い方のクセといえます。
究極の温存手段「凍りつきモード」
心身が健康なときは、交感神経と副交感神経がバランスを取り合いながら穏やかに活性化と脱活性化を繰り返しますが、オーバーワークや多くのストレスで交感神経が過剰に高ぶった状態が続くと、副交感神経は自分の身を守るために “急ブレーキ” を発動します。これを「凍りつきモード」(上図の一番上の部分)といい、無気力、動けないといった反応をもたらします。休日無気力症候群は、この「凍りつきモード」に入っている状態にあると考えられます。
「切り替わり型」と「過度の抑制型」
休日無気力症候群には2つの神経パターン(クセ)があります。このどちらか、もしくは両方当てはまるケースもあります。
切り替わり型
「行動によって何でも解決する人」「興味や関心が移りやすい人」に多いパターン。やらなければならないことが多い平日は過覚醒(交感神経が過剰に働く)状態で、休日になると低覚醒に切り替わり、温存状態に入る
過度の抑制型
「繊細で遠慮深い人」「共感能力が高い人」に多いパターン。感情にブレーキをかけがちで、心身が常に緊張しているために疲労が蓄積している
その罪悪感は神経のしわざ
「凍りつきモード」(=極度の神経エネルギー低下状態)は、自責や恥の感情をもたらします。休日を特に何をするでもなく終えてしまったことを後ろめたく感じるのはこのため。つまりダラダラしてしまうのも、それに対する罪悪感も神経のしわざであって、性格や人格のせいではありません。
「休日無気力症候群」
チェック
神経が疲弊しているときのNG行動は、自分にムチを打って無理に動こうとすること。エネルギーが尽き、うつや慢性疲労症候群につながる恐れもあります。心身がヘトヘトになる前に、自分のいまの状態を知ることから始めてみましょう。

「休日無気力症候群」
チェックシート
- 休日は1日中寝ていたり、スマホをいじったりして終わってしまう
- 休日はなかなかベッドから出られない
- これまで楽しかったことが楽しめなくなった
- 以前よりも体がだるく、何をするにもおっくう
- 月曜日が来ないでほしいと思う
- 原因不明の頭痛や肩こりが続いている
- 部屋が散らかったままで掃除・整頓ができない
- 人といると気を使って、後でぐったりしてしまう
- 小さなことでイライラしたり、気持ちが落ち込みやすい
いくつ当てはまりましたか?該当する項目が多いほど、神経の緊張が続き心身が疲弊している状態と考えられます。神経が発するキャパオーバーのサインと捉えて、まずはしっかり休むこと。その後、次に紹介する副交感神経を刺激するエクササイズを試してみてください。
「どうして私はこうなんだろう」という感情がわいてきたら、“自分を責めている自分” を客観的に見つめてみましょう。それも、神経を整えるメンテナンスになります。
神経を整える
エクササイズ
ここで目指すのは、つながりモードである腹側迷走神経を刺激して、「気楽さ」を新たにインストールすること。エクササイズといっても、日々行っている動作の延長上にあるものばかりなので、難しく考えずトライしてみてください。ポイントは頑張らないこと。取り入れやすいものだけでOKです!

副交感神経の、とりわけ人と関わるときに使われる腹側迷走神経がきちんと働くようになると、職場のように社会的な場所にいるときでもくつろげるようになり、交感神経に頼らずとも、さまざまな活動が楽にできるようになります。
腹側迷走神経複合体の分布帯
首と頭の付け根から耳の中、顔、のど、首、心臓、肺、横隔膜周辺
首を動かす
首には人と関わるときにとても大切な神経が通っています。前後左右にゆっくりゆらしてみたり、周りをきょろきょろするだけでもOK。
「ヴーッ」と声を出す
発声は神経によい刺激を与えます。特に、「ヴーッ」「ボォー」などの伸ばした濁音は、声に出すとのどのあたりに振動を感じるはず。
歌をうたう
のどから横隔膜までくまなく刺激を与えることができます。高音でビブラートをかけながらうたうと効果的。
うがいをする
「あー」「おー」と声を出しながらうがいをします。また、何かを「飲み込む」のも◎。「手のひらに人という字を3回書いて…」というおまじないは、神経の刺激を促す理にかなったやり方なのです。
深い呼吸をする
鼻から息を吸い、口からゆっくりはき出します。4拍で吸い、7拍かけてはく、というように、はく息を長めに意識して。
音楽を聞く
伸びる高音やリズムのある音は、中耳にある神経に働きかけます。女性ボーカルのバラードやオペラなどを、ヘッドホンやイヤホンで聞くとよいでしょう。
顔のストレッチ
顔の筋肉を使うことによって、神経も連動して活性化します。「あっぷっぷ」と頬をふくらませたり、舌をべえーっと出したりと、あまり使わない筋肉を意識的に動かしましょう。アンチエイジングの効果も期待できます。
遊びを楽しむ
遊びは子どもだけでなく、大人にとっても非常に大切。理想は体を動かし、声や表情のやり取りがあるもので、誰かとリズムを合わせて歌をうたうカラオケは最高の遊びといえます。複数人で行くキャンプなどもおすすめです。
浅井さんからのメッセージ
“ダラダラ”もよいものです。あなたは毎日、十分に頑張っています。自責はあって当然の感情。そんな自分を責める部分にも、優しくしてあげてください。少しエネルギーが戻ったら、迷走神経のエクササイズを行ってみてください。どれも簡単です。何かやらなきゃ、とプレッシャーをかけなくても大丈夫。迷走神経を味方につけて、あなたの人生が快適になりますように。
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