手足は冷たいのに、胸から上はほてって熱い――それは「冷えのぼせ」かもしれません。更年期の“ホットフラッシュ”に似ているけれど、実は年齢を問わず起こる症状で、気づかぬうちに体を冷やしがちな夏は、特に注意が必要なのだそう。今回は産婦人科医の松村圭子先生に、冷えのぼせの原因や改善策についてうかがいました。
- Profile
- 松村 圭子先生
- > 成城松村クリニック
産婦人科医、成城松村クリニック院長。広島大学医学部卒業後、同大学産婦人科学教室に入局、2010年に成城松村クリニックを開院。身近で相談しやすいかかりつけ医院を目指し、女性患者に寄り添う診療を行っている。『女性の悩みはFemtechで解決! オトナ女子のためのカラダの教科書』(宝島社)など著書多数。
「冷えのぼせ」の
原因とリスク
上半身の熱っぽさで勘違いしやすいけれど「冷えのぼせ」は「冷え」が重症化したもの。冷えているのに熱いというアンバランスな状態は、体温調節が正常に機能していない=自律神経の乱れが関係していると考えられます。
自律神経の乱れ
不規則な生活やストレスで自律神経のバランスが乱れると、血管が収縮して末梢に血液が届きづらくなり、手や足先が冷えやすくなります。一方、生命を維持する上でもっとも重要な脳を守るため、頭部へ向かう血管は拡張。この結果、手足は冷えているのに顔や頭は熱い「冷えのぼせ」が起こります。
室内外の気温差
外気温と室内温度の差が大きい夏は、自律神経にも過剰な負担がかかり、体温調整機能が正常に働きづらくなります。またエアコンの効きすぎた室内に長時間いると、血流悪化や冷えが加速する悪循環に。
体を冷やす食生活
夏はキンキンに冷えた飲み物やアイスクリームばかり摂っている、という人は要注意。冷たい飲み物や食べ物は内臓を一気に冷やし、自律神経の乱れや食欲不振を招くことがあります。適度に楽しむならOK。
過度なダイエット
筋肉には体内の熱を生み出す働きがあります。過度な「食べない」ダイエットは、筋肉の材料が不足してしまうために体が冷えやすくなり、冷えのぼせにつながることも。
「冷えのぼせ」を放っておくと…
乱れた自律神経を立て直せなくなり、不眠やイライラ、動悸やめまいといった不調に発展するおそれがあります。自律神経と冷えは深い関係にあり、どちらかが悪化すればもう一方も悪くなるため、体を温めるだけでなく、生活習慣を見直すことも大切です。
「冷えのぼせ」
セルフチェック
「冷えのぼせ」かも?と思ったら、まずは今の状態をセルフチェック!思い当たる項目が1つでもあれば、ぜひ改善策も試してみてくださいね。
冷えのぼせ
セルフチェックシート
- 手足は冷たいのに胸から上は
熱さを感じる - 暑い場所で少し体を動かすと上半身が
ボーっと熱くなる - 手のひらや足の裏にじっとりした
汗をかく - イライラすることが増えた
- 寝付きが悪い
- 頭痛や肩こりがひどい
- 日常的な運動習慣がない
- トイレが近い
- 生理痛がつらい
0~2個:心配なし
今のところそれほど心配する必要はありませんが、手足の冷えやのぼせの症状があれば、規則正しい生活を送るよう心がけて。
3~6個:冷えのぼせ予備軍
自律神経のバランスが乱れはじめているようです。交感神経の緊張が続いている可能性があるので、夜や休日はしっかりオフモードに切り替え、心と体をリラックスさせましょう。
7~9個:いますぐ改善を!
自律神経が乱れ、冷えが進んで「冷えのぼせ」状態にある可能性が高いです。さまざまな心身の不調を引き起こす前に、生活全般を見直し、改善を図りましょう。
夏の「冷えのぼせ」
改善策
真夏でも涼しい部屋でいつでも冷たい飲み物が飲める現代は、体を冷やしやすい条件がそろっているともいえます。冷えのぼせは体からのSOSと捉え、継続的な改善を図りましょう。ほてりを感じたときには応急処置的なケアで対応を。
「羽織りもの」で体温調整
猛暑日が続く近年の夏は、室内外の温度差が非常に大きくなっています。エアコンが効いた室内ではカーディガンやひざ掛けといった「羽織りもの」を活用して、体が感じる寒暖差を小さくする工夫を取り入れて。
ぬるめのお湯でリラックス
エアコン頼りの生活を送っていると汗腺が衰え、体内の熱を逃しづらい体質になっていきます。汗腺トレーニングと良質な睡眠のために、入浴はシャワーで済ませず、湯船に浸かる習慣を。夏場はのぼせづらい半身浴がおすすめです。全身浴の場合はぬるめ(38℃程度)のお湯に短時間浸かると◎。アロマや入浴剤を入れるとリラックス効果もアップします。
寝る前はスマホをオフ
自律神経を整えるにはしっかりと睡眠をとり、朝日を浴びて目覚めることがとても大切。そのためにも、入眠前にスマホやタブレットを操作するのはやめましょう。交感神経が高ぶり、寝ている間ものぼせているような状態が続いて、眠りの質が低下します。
適度な運動
運動不足は体内の熱をつくる筋肉を減少させるため、血行が悪くなって冷えを助長します。室内でも気軽にできるスクワットやダンベル運動など、適度な運動を取り入れて。気持ちよく体を動かすことで、ストレス解消にも役立ちます。
毎食たんぱく質を摂る
食事を摂ると、体が温かくなる感覚がありませんか?これは分解された栄養素の一部が体熱として消費されるため。この作用を「食事誘導性体熱産生」といい、特にたんぱく質は、体熱を生み出す量が多いとされています。たんぱく質は筋肉の材料にもなるため、朝はしっかり、できれば毎食摂りましょう。例えばそうめんにゆで卵やサラダチキンをプラスするだけでもOK。
ほてりを感じたら…
冷えのぼせの症状があるときは、ほてりやすい顔や太い血管が通っているわきの下にタオルを巻いた保冷剤を当てて、一時的に冷やすとよいでしょう。全身を冷やさないよう注意!
松村先生からのメッセージ
現代は便利になりすぎて、人間本来のあるべき姿から遠ざかり、そのために不健康になってしまうケースがたくさんあります。昔のように暮らすのは難しくても、例えば「朝は絶対に◯時に起きる」というようなマイルールをひとつ設けるだけでも変わるはず。そして、毎日を「楽しく快適に」過ごすこと。ときには、羽目を外すことがあってもいいんです。自分がリラックスできる方法を見つけることは、きれいと健康を維持する上でとても大切だと思います。