静かな場所で突然グゥーッ!周囲に聞こえるほどのお腹の音に、恥ずかしい思いをした経験は誰しもあるのでは?時と場所を選ばず鳴ってしまうので、会議中や集中力を切らしたくないときなどには、対策ができると安心ですよね。今回は、消化器専門医の細野先生にお腹が鳴る理由や、その対策についてうかがいました!
- Profile
- 細野 智子先生
- > ほその内科おなかクリニック
ほその内科おなかクリニック院長。消化器内視鏡学会専門医、消化器病学会専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医。1996年東京医科歯科大学卒業。2021年クリニックを開院。7年間の泌尿器科医経験もふまえ、便秘・げり症状や下腹部の張り・尿もれなど「おなか全般の不調」に対して診療にあたっている。
お腹が鳴っちゃう理由
お腹が空いているときに鳴る音は、空腹時に起こる胃の収縮(空腹期伝播性強収縮運動:IMMC)が関係しています。ただ、お腹が鳴るのは空腹時に限ったことではなく、さまざまな理由が考えられます。
お腹が鳴る仕組み
胃腸は常に動いていて、毎日1.5リットルの胃液と3リットルの腸液を分泌しています。胃に入った食べ物は胃液と混じり合い小腸に送られますが、このとき胃や小腸に空気があり、胃と十二指腸の境目(幽門)など狭い所を勢いよく通過するときに音を発します。これが「お腹が鳴っている」音として聞こえるのです。
お腹が鳴る理由にはさまざまあります。
空腹時
最も多い原因です。食後6〜10時間ほど経過すると、脳に空腹の信号が送られ、モチリンという消化ホルモンが分泌されます。このモチリンによって強い胃の収縮運動(IMMC)が起こり、収縮波が小腸の終わりまで1時間かけて伝わっていきます。胃の中の空気と液体が撹拌され、勢いよく下に流れていくことによって、「グゥー」「キュルキュル」といった音がでます。
食後
胃に入った食べ物は3〜5時間かけて消化されます。この間、胃を満たしていた食べ物と胃液がどんどん小腸に送り出されますが、残り少なく(食後2〜3時間)なると胃の中の空気を多く含んだ状態で流れていきます。空腹を感じていなくても音が鳴るのはこのため。また、食後は前の食事の消化物(宿便)を送り出そうとして大腸も動き出す(胃結腸反射)ため、大腸にガスが溜まっていると音が鳴りやすくなります。
下痢・便秘
胃腸の働きは自律神経と深い関わりがあり、ストレスなどでそのバランスが崩れてしまうと便秘になったり、逆に腸の働きが過剰になって腹痛や下痢を引き起こしたりします。ガスが溜まりやすくなり、それによってお腹がひんぱんに鳴ることも。
早食い・過食
早食いの人やしゃべりながら食べる人は空気を飲み込む量が多く、お腹が張ったり音が鳴りやすくなります。また、一度にたくさん食べるとそのぶん胃の収縮運動が大きくなるため、食事の2〜3時間後に大きな音が鳴ることがあります。
お腹が鳴るのは
実はいいこと!
「恥ずかしい」ととらえがちだけれど、お腹が鳴るのは胃腸がきちんと機能している証拠であり、健康な体の証ともいえます。特に「空腹を感じてお腹が鳴る」のは、生活リズムが整っているからこそ。体内で行われている働きを、もう少し詳しくみていきましょう。
お腹の中をキレイにしているサイン
胃から小腸の終わりにかけて起こる空腹期の収縮運動(IMMC)は、腸内の細菌繁殖を防ぎ、また細菌の元となる食べ物のカスを押し流す重要な働きを持っています。つまり、お腹の音は胃腸をキレイに掃除してくれているサインといえます。
お腹が鳴らない=胃の不快感に
つながることも
空腹期の収縮が十分に行われず、胃の働きが悪くなると、胃液や腸液が体内に停滞し、細菌が繁殖しやすい状態に。そこからお腹の張りや胃もたれ、胃液が上がるといった症状(過敏性腸症候群や機能性ディスペプシア)につながるおそれもあります。
「ダラダラ食べ」はNG
ダラダラと間食などを取り続ける食生活は体内時計を狂わせ、空腹期収縮をうながすホルモン・モチリンの分泌を妨げます。その結果、収縮運動がきちんと行われず、不調の原因になることも。食事は「お腹が空いた!」と感じて食べるのが健康のためにも重要です。
お腹が鳴るのを
止める方法
とはいえ、やっぱり人前でお腹が鳴るのは恥ずかしい…。そこで、人と会う約束がある時や会議の前など、事前にできる対策をご紹介します!
すぐ止めたいなら
ジュースやキャンディーを
空腹期の収縮運動は始まると20〜30分続くので、一時的に「空腹ではない」と脳に錯覚させることが有効な対策になります。会議の前などに、糖分が入ったジュースやお菓子をひと口つまむとよいでしょう。また、ミントには胃の収縮運動を抑制する作用※が認められており、ミントティーやタブレットを摂るのもおすすめです。
※医薬品で用いられているメントールの量、作用とは異なります
計画的に止めたいなら
事前の食事量は控え目に
一度にたくさん食べると胃の収縮運動が大きくなるので、お腹が鳴りやすくなります。事前(2〜3時間前)の食事量は控え目を心がけて。
「鳴りやすい食品」があるかも?
個人差がありますが、体質によって特定の食品を摂ったあとにお腹が鳴りやすくなる場合があります。何を食べたらよくお腹が鳴る、あるいは張るか、普段の食生活の中で観察しておくとよいでしょう。
◎たとえば…
- ・さつまいも/不溶性の食物繊維を摂るとガスがたまり、お腹が鳴りやすくなる
- ・小麦/遅発性アレルギーの場合、食後にお腹がゴロゴロ鳴ったり下痢を起こしやすくなることがある
- ・乳製品/乳糖不耐症の人はお腹がゴロゴロ鳴りやすい
- ・発酵食品/お腹が張りやすくなることがある
気にしすぎない
緊張状態にあると交感神経が優位になりますが、過敏性腸症候群の方は、逆に過緊張で副交感神経が優位になり、腸が活発に動いてお腹が張ったり、それに伴ってお腹がゴロゴロと鳴ることがあります。お腹が鳴ることを忘れるくらいおおらかに構えていると、むしろ鳴りづらいようです。
細野先生からのメッセージ
お腹が鳴ることは呼吸したり、心臓が動いているのと同じくらい生きていく上では当たり前で、恥ずかしいことではありません。気にしないのが一番ですが、今回ご紹介した対策は精神的なお守りにもなると思うので、お困りの方はぜひお試しくださいね。
また、あまりにひんぱんにお腹が鳴り、腹痛や下痢、便秘などもある場合は病気がひそんでいる可能性もありますので、消化器内科の受診をおすすめします。